
タイで現地社員を採用するうえで必要と思われる基本的な考え方を、実際によく聴取する失敗や誤解を例示しながら紹介します。
代替人材の採用活動における失敗としては、主に以下の2つが挙げられるでしょう。
1)代替人材の採用に想定以上の時間を要する
2)離職人材の質を上回る、あるいは同等の代替人材が採用できない
これらの失敗例は、代替人材の採用費用を最少化したい企業の採用活動に対する姿勢に起因していると言えます。例えば、人材紹介会社からの正社員紹介サービスを受けて採用した社員がその保証期間内で離職する場合、その保証として受けることになる再紹介サービスはその典型例であると言えるでしょう。
離職が自己都合、会社都合かによって多少の差異はあるものの、決定人材の離職に伴う採用企業への保証として、多くの人材紹介会社は代替人材を無償で紹介するサービスを提供しています。紹介を受けた企業からみると一見、紹介後の「付加価値」的なサービスと映ります。採用費用を最少化したい企業側の意図とも合致します。
しかしながら、それは企業にとって採用媒体の限定を余儀なくされます。つまり、必然的に紹介会社1社の紹介活動に依存することを意味します。日系・非日系を問わず、ほとんどの紹介会社が成功報酬の保証として、この種の代替人材の無償紹介を提供しています。企業にとってはこれが盲点となりやすいのではないでしょうか。
回収した報酬の返金を可能な限り回避したいとする紹介会社の戦術的意図は、付随的なサービスを受ける権利を行使したい企業の利害と一致します。採用活動の成果を最大化したい顧客企業の視点に立てば、それはいわば「供給側の商業的論理」とも言えます。また、採用活動を失敗すると、その後の代替社員採用後の業務継承期間における収益面での損失額に甚大な影響を与えることになります。代替人材の採用活動において最大の成果を得るためには、再紹介を受ける権利を放棄してでも、複数の採用媒体を効果的に活用する必要があるのではないでしょうか。
代替人材採用の重要性を強く認識する当社は、設立以来基本的に再紹介を行っておりません。複数の採用媒体の活用を促す意図を込め、在職期間に応じた紹介料の返金をもって保証制度を体系化しています。
入社後間もない離職は、その理由とは関係なく、結果的に顧客満足が十分であったとは考えられません。その観点からも迅速な返金を実施しております。同じ理由により、紹介サービスを利用し続けるかどうかについては、むしろ顧客が決めることであり、顧客満足とは無関係に、契約内容に従う形で再紹介が必然的に行われても、十分な活動成果をもたらすとは限りません。
また、再紹介サービスを紹介会社の貸借対照表には表れない「債務」であると考えると、同様に顧客においては「債権」であります。両社における財務上の健全性からも、迅速な返金によってそれを早期に決済すべきではないでしょうか。
■ビザ及び就労許可の発給条件
タイでは外国人の採用に関して、企業は基本的に多くの規制を受けます。査証(ビザ)を管轄する入国管理局からは、外国人1名の申請に対し同一企業内で4名のタイ人の採用義務などに加え、月額5万バーツ(日本人の場合)の給与に相当する個人所得税の源泉徴収と納税義務などが挙げられます。
■違法雇用の可能性
このように規制が多い事業環境下、特に就労許可の申請に関して誤解している企業も少なくありません。最も多い誤解は、就労許可の申請は入社後に行っても問題ないと誤解している企業です。申請後数週間で認可が可能であり、実際にはほとんど問題がないと考えているようですが、認可に至るまでの期間は、厳密に言えば違法就労と判断されます。
さらには、企業が個別に定める試用期間における業績を評価して、つまり試用期間満了後に申請を行う企業さえあります。これは誤解というより、申請リスクを企業として最小化したい、企業側の都合と言ってもよいかも知れません。実際に正社員として採用するかを見極める3~4ヶ月の試用期間の不確実なリスク、いわば試用期間内の退職や解雇に伴う金銭的、時間的損失を出来る限り回避したい考え方が根底にあると言わざるを得ません。
■合法的に雇用する
他方、実際に入社し、勤務する人材はその置かれている法的な立場が違法就労であるため、業務遂行以前の問題として、精神衛生的に不健全な状態へと陥る場合もあります。このような状態を放置したままでは、企業が求める役割を適切に遂行することは難しいでしょう。
また、違法行為自体を否定しない企業の根本的な考え方自体が人材の企業に対する不信感を生み、企業としての誠意ある対応とは決して受け取られません。ましてや企業に対する忠誠心、いわゆるロイヤリティを醸成することは非常に難しくなります。
入社する人材に十分な役割を発揮してもらうためには、外国人であるからこそ、それを可能とするための最低限の法的な業務環境の整備が確実に必要でしょう。合法的な就労のために入社前に就労許可を取得することは、外国人を雇用する企業として最低限の法的手続きであります。
■経営リスクの一つ
正式な就労許可がなければ、それはとりもなおさず、企業にとっても違法行為であり処罰の対象でもあります。また、就労許可の認可を受けていない社員に対する賃金は会計処理上、支払い給与として経費処理されることが不可能であるため、個人所得税も源泉徴収されません。それらの業務に携わっている経理社員には少なくともその行為が確実に露呈されてしまいます。
会社に対して不満をもつ社員が退職後、当局へ密告するケースも少なくなく、経営リスクの一つであると言っても過言ではありません。企業としての社会的な存続リスクが潜む行為であることを注意深く認識し、企業は法に対する正しい理解と実践を注意深く心がける必要があると言えるでしょう。